システムエンジニア(SE)が転職するとき、今より条件の良い会社に転職したいと考えるものです。憧れを実現できる場合や、特別なスキルを身につけたいと考える場合を除くと、最悪でも現状維持でないと意味がありません。
しかし、IT業界には、SEのことを数合わせとしか考えない「ブラック企業」が存在します。
特に、IT業界の中には、建築業界と同様のゼネコン構造である「SI業界」があったり、厳しい納期と顧客からの突然の仕様変更があったりするため、ブラック化しやすいのが特徴です。
一度でも、間違えてブラック企業に入社してしまうと、「在職期間の短い再転職でキャリアが傷つく」「精神的に潰れてしまう」などのデメリットがあります。
そこでこのページでは、「SEが転職前にブラック企業を見極める方法」を解説します。
Contents
ホームページ・求人・面接などで判明する、ブラック企業の見極め方
はじめに、ホームページ・求人・面接などで判明するブラック企業の見極め方を解説します。特に、ホームページや求人の時点でブラック企業を選別できれば、余計な時間や交通費などを取られずに、転職活動ができます。
具体的には、以下の7点は入社前に必ず確認したい項目です。
- 基本給が低い
- いつも求人が出ている・あらゆる媒体で求人が出ている
- 設立が古いのに平均年齢が若い
- 教育に力を入れていない
- ネットでの評判が悪い
- SI業界なら、何次請けなのか
- その場で合否が決まってしまう
それぞれ、順を追って解説させて頂きます。
1.基本給が低い
基本給が低い代わりに、よくわからない技術手当がつく会社は、ブラック企業の可能性があります。基本給は、残業代、ボーナスなどは、すべて「基本給」をベースにして決まるため、基本給を低くすることで従業員に支払う給与を抑えていることが考えられるからです。
会社によっては、あらかじめ「みなし残業代」として、「低い基本給+みなし残業代」でようやく通常の給与になる企業すらあります。
ボーナスでも、基本給が10万円しかないのに、「4か月分の賞与」ということが求人表に記載されていることがあります。これでは、基本給20万円の2ヵ月分と変わりありません。
結局のところ、上記のように従業員に支払う給与を低くしようと考える企業は、経営者の利益のことしか考えてないことが多いのです。
また、このような企業でも、求人票には「月給〇〇万円」としか掲載していないことがあります。労働契約を結ぶ前に、基本給が不当に抑えられていないかを確認することを忘れないでください。
2.いつも求人が出ている・あらゆる媒体で求人が出ている
数か月~数年スパンで、いつも求人が出ている・あらゆる媒体で求人が出ている企業には気をつけてください。広告費にお金を使えるので体力のある企業ではありますが、そこまで大々的に募集しないと人材が集まらない会社だということを証明しています。
例えば、本当に人気のある企業の場合、専門誌の隅のように小さく求人を掲載しただけで、大量の募集があります。
一方、不特定多数の求職者の目のつく場所に大量に求人を掲載している場合、以下の2点に当てはまる可能性が高いです。
- ひと目のつく場所に大量に求人を出さないと、応募がない
- 入社していく以上に、SEが退職していく
いずれの場合も、その会社で働くSEが悪い労働条件で働かされているという事実に行き着きます。このような求人を避けるためには、転職サイトで求人を見つけても、「他サイトで同じ求人が出ていないか?」「以前から何度も募集していないか?」を確認する必要があります。
ただし、「以前から何度も募集していないか?」については、転職サイトからは判断するのが困難です。いっそのこと、転職サイトを活用する不便な転職はやめて、SE専門の転職エージェントに登録したほうが便利です。
そこでは、「あなたが紹介した会社は、長期的に何度も募集している会社ではありませんか?」と簡単に質問できます。このように、何度も求人を出すような大量採用大量離職の会社は、入社しても健康を損ねてすぐに退社してしまうようなブラック企業の可能性が高いです。
ただし、新事業を展開している伸び盛りの企業では、長期的に求人を出すこともあり得るため、必ずブラック企業ではないことには注意してください。
職種未経験で潜り込むなら、数年の我慢を覚悟して入社するのはありかも!
上記で解説した「頻繁に求人を出している企業」は、場合によっては、あなたにとってメリットのある企業になり得ます。具体的には、「職種未経験で業界に潜り込む場合」は、このような企業に入社するのはありでしょう。
例えば、あなたがIT業界の中で、開発者ではなくITサポートのような職種に従事しているとします。そこで、「開発者に転職したい」と考えても、誰しもが条件の良いところに入社できるわけではないのです。
しかし、独学でプログラミングをやっていても、企業で通用するレベルに到達する方は少ないです。モチベーションや時間の問題があるからです。
そこで、条件には目をつぶって、大量採用の会社に入社して経験を積む方法が考えられます。もちろん条件はよくありませんが、そのような会社でも、自分よりスキルの高いSEは大勢いるのです。
彼らからスキルを吸収した後、もっと条件の良い会社に再度転職してください。
- どうしてもなりたい職種がある
- 体力的・精神的に良好で、一時的にプライベートを犠牲にして仕事に集中できる
上記の条件が揃っているなら、ステップアップを前提に、業界に潜り込む選択肢もあります。
3.設立が古いのに平均年齢が若い
設立が古いのに、社員の平均年齢が若い会社にも注意する必要があります。ある程度歳を取ったら、退職せざるを得ない状況に追い込まれている可能性があるからです。
例えば、会社の給与が安いと、家庭を背負ったときに条件の良い会社に転職する必要があります。
ほかにも、長時間労働で体を酷使するために、ある程度の年齢を過ぎると会社にいられないこともあり得ます。
このように、設立が古いのに平均年齢が若い場合、若者の無理がきく労働力を搾取している可能性があるのです。
4.教育に力を入れていない
社員の教育に力を入れていない会社は、ブラック化する傾向があります。組織全体として学習する雰囲気がないと、スキルの向上を怠ってしまうのが人間の性だからです。
組織のスキルレベルが低いと、長時間労働によって開発を完成させるしかなく、ブラック労働に拍車がかかります。
すると、他社でも通用する優れた開発者から転職してしまい、ますますレベルの低い開発者しか組織に残らないという悪循環が発生するのです。
一方、会社が教育に力を入れていれば、卓越した開発者のノウハウを社員が共有して、組織全体で生産性を高める施策にも取り組み始めます。
教育に力を入れた直後は、余計な仕事が増えたように感じるかもしれません。
しかし、社員全体の生産性が高まり、業務に余裕が出てくると、さらにスキルを高める余裕が出てきて会社がホワイト化するのです。
ちなみに、あなたの現在の会社が教育に力を入れているかどうかは、発言力のある上司や同僚の言動からある程度推測できます。
例えば、IT業界の国家資格である「情報処理技術者試験」にあなたが挑戦していたとします。この試験は、汎用的な知識を問う資格試験になっており、実務に直接的に役立つわけではありません。
そこで、学習意欲の低いSEの中には、「そんな試験の勉強をしても意味がない」という人もいます。場合によっては、発言力のあるSEがそのようなことを言うこともあるのです。
そこで、そのSEが普段どのようなことを学習しているのかを、注意深く観察してください。そのSEが、資格試験に使わない時間をほかの学習に当てられていないなら、単純に自分のスキルを高める努力を怠っていると考えられます。
発言力のあるSEが、そのような考え方を持っている場合、会社自体が教育に力を入れているとは考えにくいです。
これは、入社前にはわかりづらいことですが、面接でも確認できる手段はあります。
例えば、面接の場には技術担当者が現れるものです。その技術担当者に、普段どのように自分のスキルを高めているかを逆質問してください。
そこで、あなたの納得する回答があれば、その会社はあなたより優れたスキルを持っている人たちで運用されていることが多いです。
ほかにも、「資格手当」などを支給している会社であれば、教育に力を入れていることがわかります。
このように、面接で逆質問したり資格手当を確認したりすることで、教育に力を入れているかを見極めてください。
5.ネットでの評判が悪い
面接予定の企業は、必ずネットで評判を検索するように心がけてください。条件の悪い企業は、すでに多くの悪評が立っているからです。
ここで確認するべきサイトは、「信頼できる口コミ」を掲載しているサイトです。
例えば、以下のような条件に当てはまっているサイトは、口コミの質が高いです。
- 会員登録しないと、書き込みはおろか、閲覧すらできない
- 口コミサイトが転職エージェントを兼ねていて、「利用者が何を書き込んだか」を口コミサイト運営者が把握できる
さらに、このようなサイトで「優良企業がどのように評価されているか?」まで確認しておくと、面接予定の企業の口コミと比較して、会社のレベルを推測できるのです。
ここで、他社の評価は真っ当に行われているのに、自分の面接予定の企業が悪く書かれていた場合、ブラック企業の可能性が高いです。
どうしても入社したい企業でない限り、ほかの企業の面接に集中するために、該当企業の面接を辞退することも検討してください。
6.SI業界なら、何次請けなのか
IT業界の中には、建築業界と同様のピラミッド構造をした「SI業界」が存在します。具体的には、SI業界は以下のような構造になっています。
大規模システムを受注する元請けは、自社では対応しきれない開発業務などを一次請けに外注します。一次請けでも開発者が足りなければ、二次請け以降に外注するのです。
このとき、本来顧客が100万支払っていた仕事も、下流に向かうにつれて「100万→90万→80万」と中間搾取が発生します。
この業界で働く場合、入社した企業から別の企業に派遣されて働くことになるので、「何次請けとして働くのか?」が大切になってきます。
このとき、ピラミッドの下のほうでしか働けないのであれば、悪い条件でしか働けないということになります。実力のある企業のほうが、よりピラミッドの上層に入っており、これが企業の実力の目安になるのです。
もし、SI業界の企業に入社するなら、面接の際に「何次請けで仕事をしているか?」を聞いてみるのもありです。
ここで、言葉を濁したり不機嫌な表情に現れたりしたら、あまりよくない条件で働かなければならない可能性が高いでしょう。
7.その場で合否が決まってしまう
面接の場で合否が決まってしまう会社も要注意です。よほど、あなたの能力が高い場合を除いて、面接官はすべての求職者を見てみたいと考えるからです。
企業が転職サイトなどに求人を掲載する場合、ハローワークのような公共の機関でなければ、企業にお金を支払っています。せっかくお金を出して求職者を集めているのに、すべての人間を見ないで採用を即決するのはもったいないことです。
採用枠には限りがあるため、あなたを採用することで、今後もっと素晴らしい求職者をお断りする事態に陥ってしまうこともあり得ます。
このような状況下で、採用を即決するということは、求職者が集まらないようなブラック企業である可能性が高いです。
ただし、オーナー企業の経営者がいきなり面接に出てきた場合、直感で採用を決めてしまう方もいます、この場合、ブラックではないこともあるので、「人が集まらないだけなのか?」を本記事の基準を元に判断してください。
職場チェックは必須
実際に働く職場を確認できる場合、職場のチェックは重要です。職場環境には、その会社の思想が出るからです。
場合によっては、「こんなことをしては、失礼になるのではないか?」などと深く考えずに、職場の見学を願い出ても良いでしょう。
もちろん、入社することになったら、企業とあなたの間に雇用関係が結ばれます。
しかし、面接の場では「お互いの条件を確認しあう作業」でしかないのです。
真剣に職場見学を申し出れば、「このSEは、本当に当社に入社する覚悟で面接を受けているのだな」と感じてもらえる可能性すらあります。
そう考えると、職場見学を申し出て、自然な形で職場をチェックするのがベストです。
具体的には、職場チェックで以下のような項目を確認するのは必須です。
- 社員がどのような表情をしているか?
- 使用パソコン・ディスプレイなどの開発環境はどうか?
- 社員一人ひとりの作業スペースが確保できているか?
企業内を案内してくれている方に不審がられないように、自然な形で確認してください。
1.社員がどのような表情をしているか?
あなたが職場を見学したとき、すでに働いている社員がどのような表情をしているかを確認してください。
特に、見学することが知らされていないほうが、普段の表情がみれて良いです。
ここで、暗い表情をしていたり、あなたを睨むような表情を見せたりする場合、ブラック企業の可能性が高いです。普段から劣悪な環境で働いていたら、自然と表情に現れるからです。
ほかにも、スーツの着こなし、革靴のお手入れ、髪型、歩き方など、社員の容貌や振る舞いまでチェックしておくのも有効です。
あまり外見に気を使えていない場合、人生に余裕のないSEが多いということがわかり、ブラック企業の可能性が高まります。
面接の場は、あなたが一方的に評価される場所ではありません。あなたも会社のことを評価してください。
2.使用パソコン・ディスプレイなどの開発環境はどうか?
SEが使用するパソコンやディスプレイが、高性能かどうかを確認してください。これらの道具は、生産性に直結するものなので、ここを妥協している会社にロクな会社はありません。
例えば、Excelと開発ツールを同時に立ち上げると、頻繁に処理が止まるレベルの性能のパソコンしか導入されていないとします。このとき、「儲かっていない会社」か「設備投資に力を入れていない会社」であることが判明するのです。
ほかにも、「ディスプレイが小さい」、などの条件でも同様です。社員の生産性を高めるための設備投資にお金を使えていません。
仮に「経営者が善人だが、会社は儲かっていない」という状況でも、会社を潰さないための無理な長時間労働が発生しうるのです。これでは、経営者を責めにくい分、わざと社員の条件を上げない経営者よりも、たちが悪いです。
反対に、デュアルディスプレイや最新型パソコンの導入など、生産性を高める設備投資を実現しているなら、ホワイト企業の可能性が高まります。
仮に、社員が私物のディスプレイを持ち込んでいても、生産性を高める行動が自由化されていることが想定されるので、自由な働き方を求めるエンジニアにとってはホワイトな職場といえるのです。
開発環境以外にも、「無料のウォーターサーバーがある」「喫煙室が完全に分離されている」「遊びのルームなどがある」のように、開発者の定着率を上げるための設備が整っていると、そこで働くSEの生産性向上につながります。
ようは、SEの生産性を高めるための企業努力をしているかどうかを確認して、ブラック企業を見極めてください。
3.社員一人ひとりの作業スペースの確保できているか?
社員一人ひとりの作業スペースが確保できているかも重要です。社員同士の距離があまりにも近すぎる場合、隣の社員から発せられるタイピング音や独り言にストレスが溜まるからです。
例えば、SEを大切にしない会社では、長机にコンパクトサイズのパソコンを複数配置して、そこでSEを働かせることがあります。特に、期間限定のプロジェクトで大量の人員を連れてきた場合、狭い部屋に机を並べて作業させるような話は、IT業界では枚挙に暇がありません。
そこまでひどくなくても、隣の社員の書類などが自分のスペースを侵食するような職場は存在します。このような場所も、SEが業務のこと以外でストレスを溜めてしまう職場であり、避けたほうが良いでしょう。
反対に、2台以上のディスプレイを通常の横置きで設置できたり、パーティションで区切られていたりする職場は、ホワイトである可能性が高まります。
「この職場では、SEに無駄なストレスを与えていないか?」をキーワードに、面接を受けた職場をチェックしてください。
実は、IT業界で働くSEは、ブラック企業を避けて気分爽快で仕事ができる数少ない職種
IT業界は、建築業界と同様のゼネコン構造を取る「SI業界」や、炎上したプロジェクト内の納期前の徹夜の話など、ブラックな噂が流れ続ける業界です。
エンジニアという仕事が、インターネットと親和性が高いことも合わさって、今ほどインターネットが普及していなかった頃から、「SEはやめておけ」という言説が蔓延していました。
しかし、ブラックな職場は、業界に関係なく存在するものです。
例えば、僕がフリーランスエンジニアになった時に担当してくれたエージェントは、毎日21時を過ぎても会社にいることが普通でした。
これは、1日数時間残業していることになります。僕が経験したIT企業でも、こんなに残業する企業はありませんでした。
さらに、SEの場合、ほかの職種と比べて「スキルが他社でも通用しやすい」ため、真っ当なスキルを身につければブラック企業からいとも簡単に転職ができます。
そう考えてみると、ネットで「ITはブラックだからやめておけ」という話も、そのような企業でしか働けないSEのスキル不足として説明できるのです。
IT業界こそ、自分の力でブラックな環境を打開できる素晴らしい業界と、僕は声を大にして言いたい!
もし、あなたが在職中なら、本記事を参考にして自分の働いている企業がブラックではないか、振り返って考えてみてください。転職活動中の場合も同様です。
そこでブラックであることが判明したなら、「スキルを高める」「会社に改善を要求する」、などの具体的な行動に移しましょう。ブラック体質を変えられない会社には見切りをつけて、優良企業に転職すれば良いのです。