仕事というものは、お金をもらってやる以上、必ず苦労があります。これは、システムエンジニア(SE)であっても例外ではありません。
他のSEが経験している苦労を聞くことで、「苦しいのは自分だけではないんだなぁ」と実感するのも大切です。
しかし、SEの苦労にも「経験したほうがよい苦労」と「経験しなくてよい苦労」があるというのが、僕の持論です。
いくら仕事に苦労がつきものだといっても、必要のない苦労に苦しむばかりでは、ブラック企業がのさぼってしまいます。理不尽な苦労は我慢せずに、ホワイト企業に力を貸すほうが世の中のためです。
そこでこのページでは、「SEにとって経験したほうがよい苦労と経験しなくてよい苦労」について解説します。
Contents
経験したほうがよい苦労
はじめに、SEが人生で一度は経験したほうがよい苦労について解説します。これから説明する苦労に、あなたの置かれている状況が当てはまるなら、多くのSEが乗り越える苦労だと考えてください。
具体的には、以下の3つの苦労に当てはまる状況で苦しんでいる人が多いです。
- 技術力が足りずに試行錯誤する苦労
- 複数人とコミュニケーションを取って開発する苦労
- 上が詰まっていてステップアップしにくい苦労
繰り返しになりますが、今から説明する苦労は、基本的には経験したほうがよい苦労です。
ただし、体調を崩してまで経験する苦労などありませんから、「生命の危機に瀕しない」という前提で経験してください。
1.技術力が足りずに試行錯誤する苦労
技術力が足りずに試行錯誤する苦労は、SEであれば経験するべき苦労です。プログラミングでどこまで出来るかを知るいい機会になりますし、自分の技術力向上にもなります。
そもそも、技術的に完璧な状態でプロジェクトにアサインする状況など滅多にありません。
多かれ少なかれ、SEは現場で技術力を身につけています。
それに、技術力が足りずに試行錯誤している時点で、あなたに仕事を割り振る上司がいるのではないでしょうか?
あなたに対して適切に仕事が割り振られていると仮定するならば、おそらく不可能な仕事は割り振られていないはずです。そこで、試行錯誤して技術力を高めるところまで、上司は織り込み済でしょう。
こうして技術的に難解な仕事をクリアすることで、将来のあなたは「プログラミングでできること」と「自分のレベルでできること」を正確に把握できるようになります。
2.複数人とコミュニケーションを取って開発する苦労
複数人とコミュニケーションを取って開発する苦労もSEが経験するべき苦労といえます。IT業界全体でシステム開発は大規模化しており、一人で開発できる環境は少ないからです。
例えば、僕が経験している運用SEの仕事でも、「○○チーム・△△チーム・××チーム」と業務毎にチーム分けされています。どのような現場でも、大抵5~10名程度のチームです。
そこでは、業務の役割分担や引き継ぎなど、多くの状況でコミュニケーションが必要になります。ここで、自分の伝えたいことを明確に伝えないと、余計な工数の後戻りが発生することもあるのです。
SEというと、パソコンの前にずっと座っているイメージを持つ人がいます。
しかし、実際には顧客やチームのメンバーと頻繁にコミュニケーションを取るものです。どこの現場でもコミュニケーション能力は必須のため、複数人でのやり取りに苦労しているなら、今の現場で鍛えたほうがよいでしょう。
3.上が詰まっていてステップアップしにくい苦労
上が詰まっていてステップアップしにくい苦労もSEによくあります。歴史のある大企業だからこそ、年功序列がしっかりしておりマネジメント側に回るまでに時間がかかることも多いです。
ここで、「上が詰まっていて自分がやりたいことができない」と考えて、ベンチャー企業などの出世しやすい企業に転職するのも解決策の一つにはなるでしょう。
しかし、上が詰まっていようと、マネジメント側に回れる道もある時点で、企業としては相当レベルが高いことを忘れないでください。
IT業界は、IT企業とは名ばかりの技術者派遣会社がたむろしている世界です。「SEの多くは、マネジメント側にステップアップしないのではなく、できないだけ」という事実もあります。
前述のベンチャー企業への転職に関しても、生涯賃金や社会的信用などを天秤にかけると、デメリットもみえてくるものです。
マネジメント側に回りたいのに、その可能性が限りなくゼロに近い場合のみ、即座に転職を選択肢に入れるのが無難でしょう。
今の会社で多少上が詰まっているのなら、プライベートで社会人サークルのまとめ役などを経験して、リーダー経験を積んでみてはどうでしょうか?
他にも、IT業界で最も有名な情報処理技術者試験の「プロジェクトマネージャー試験」に合格するのも、会社へのアピールになります。
その経験を、上司との雑談の中でそれとなくアピールすることで自分の理想に近付くのも、SEが経験するべき苦労です。
経験しなくてよい苦労
ここからは、SEが経験しなくてよい苦労を解説します。今から説明する苦労に当てはまっている場合、命を守るために最悪すぐに逃げ出しても構いません。
具体的には、以下のような状況は、現代のSEが経験しなくてよい苦労です。
- ブラック企業なパワハラ上司に悩まされる苦労
- 仕事量が多すぎる苦労
- 同じ職場の同僚より給料が安い苦労
理不尽な苦労から逃げ出すのは、決して恥ずかしいことではありません。むしろ、優秀なSEがブラック企業からホワイト企業に移動すれば、IT業界が健全化するのです。
1.ブラック企業やパワハラ上司に悩まされる苦労
ブラック企業やパワハラ上司に悩まされる苦労は、今どきのSEが経験しなくてよい苦労です。近年のIT業界は、悪い労働条件では人が集まらないと気がついており、労働環境の改善が進んでいます。
例えば、ブラック企業の共通点に、「根性論がまかり通っていて、様々な仕組みができていない」というものがあることをご存知でしょうか?
ここでいう仕組みとは、「ミスの再発を防ぐ仕組み」や「新人が入社したときに教育する仕組み」など、会社を円滑に回しながら、長年経営していく中で現場のレベルを高める施策のことです。
ブラック企業の場合、大抵この仕組みが上手くできておらず、特定の社員の根性で現場が回っています。
そのため、ミスが起きても怒鳴るだけの対処となるほか、仕組みづくりを進める余裕すらなくなり、有能なSEからは避けられる企業となるのです。
すると、ますます現場は疲弊して、現場が火を噴くばかりかマニュアルもロクにない現場が誕生します。
このような現場に入ってしまっては、うつ病などの病気になる原因にもなります。
うつ病になる現場を見極めたい方は、以下の記事も参考にしてください。
パワハラ上司なども、元をたどれば怒りでマネジメントしなければならないほど追い詰められていることも多く、根本的な責任は仕組みを作れない会社経営者にあります。ブラック企業およびパワハラ上司に悩まされているなら、即座に転職を検討してください。
2.仕事量が多すぎる苦労
仕事量が多すぎる苦労も、SEが経験する必要がない苦労です。長時間労働が当たり前になっている現場は、労働条件を改善する意識がなく、SEを使い捨てにしているからです。
例外として、「ITベンチャーの成長期で、ここを耐えると良いポジションを狙える」「普段は普通の現場だが、繁忙期だけは残業が増える」などのように、一時的な長時間労働の場合だけは、もう少しよく考える必要があります。
「仕事が多すぎる = 悪」と考えて、勢いで転職を繰り返すと、「嫌なことがあったらすぐに転職してしまう」と周囲から判断されることもあるからです。
SEにとって理想の転職回数を知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
上記のような特殊な例以外では、長時間労働は避けたほうがよいでしょう。
それでは、具体的に「どれほどの残業があると長時間労働といえるのか?」を解説します。結論からいうと、「月20時間までなら普通」「月20~79時間なら転職を検討」「月80時間を超えたら過労死ラインなので即座に逃げても良い」と考えてください。
特に、過労死ラインは厚生労働省が定めた明確な基準なので、これを上回る労働に従事しているなら、明らかに仕事量が多すぎます。
それだけの時間を使うぐらいなら、以下のように転職するほうが合理的です。
- 会社を退職する
- 会社員時代に使っていた「月160時間 + 80時間」の労働時間をスキル獲得に充てる(2ヵ月で480時間)
- 条件の良い会社に転職する
転職後に残業が全くなければ、毎月残業分が余暇の時間として確保できます。その時間を使ってさらにスキルを磨けば、さらに人生の好循環が発生するのです。
ブラック労働によって人生が浪費されるよりも、その時間を使ってスキルを磨いて条件の良い現場に転職したほうが賢明な選択肢といえます。
3.同じ職場の同僚より給料が安い苦労
同じ職場の同僚より給料が安い苦労も、SEが避けるべき苦労です。SEの現場は、複数の会社からSEが派遣されて成り立っており、同じ職場で働いていても所属企業によって給料が異なる状況が発生します。
もう少し具体的に説明させてください。
顧客先企業は、SEを派遣してくれる協力会社にお金を支払います。このとき、協力会社は顧客先企業から受け取ったお金を一部を抜き取り、残ったお金をSEに給料として支払うのです。
ここで、どれだけのお金を抜き取るかは、協力会社次第となります。そのため、同じ職場で働いていても、所属企業によって給料が異なる状況が発生するのです。
仮に、あなたが所属企業から多くのお金を抜かれていると気がついたとき、何らかの対処を取る必要があります。はじめにすべきことは、「所属企業への条件アップの交渉」で間違いありません。
そもそも、SEに支払う給料を少なくする企業は、SE側から交渉しないと会社からは絶対に条件を上げてくれません。僕の同僚にも、自社に交渉することで3万円も月給が上がった人がいます。
ここで、条件が上がらない場合、転職を検討してください。このとき、以下の考え方を持って転職活動をするのが合理的です。
- これからも転職によってIT業界を渡り歩くつもりなら、給料の提示額が多い企業に転職
- 転職が最終手段だと考えるなら、現在の給料の提示額だけではなく将来的な条件も加味
あなたが頻繁に転職して条件を上げていくなら、単純に給料の提示額が多い企業に転職すれば、同僚より給料が安い苦労を避けられるはずです。
しかし、基本的には企業に所属して定年まで働くつもりなら、給料以外の「福利厚生・ビジネスの将来性・ステップアップできるポスト」などまで検討して転職してください。目先の給料に騙されて、生涯賃金を下げてしまう可能性があるからです。
こうして、主体的に給料を上げていく行動を取れば、「同僚と同じ仕事をしているのに給料が同僚より安い」という苦労からは脱することができるでしょう。
最後に
SEを長年続けていると、一度や二度は誰しも苦労します。それらの苦労を乗り越えることで、人間的にも一回り成長することもあるでしょう。
しかし、「苦労 = 乗り越えるもの」と考えてしまうのは、危険な行為です。自ら苦労を引き受けていると、ずる賢い人間に余計な仕事を押し付けられてしまうこともあります。
ここで、僕の好きな名言を紹介させてください。
私が成功した理由は、飛び越えられるであろう30センチのハードルを探すことに精を傾けたから
世界的投資家 ウォーレン・バフェット
上記の名言からヒントを得ると、職場で直面する全ての苦労を乗り越えようとせずに、自分が飛び越えられるであろう苦労を探すのも重要です。
例えば、技術力ではどうしても同僚に勝てないとします。そこで、「技術力を同僚より高める」というハードルを設定するのは、あまりにも無謀になります。
ここであなたがコミュニケーション能力に自信があるなら、「顧客に対するプレゼンが得意になる」というハードルを乗り越えることで、自分独自の価値を生み出せるのです。
つまり、「技術力を卓越させる」という苦労よりも、「顧客にソフトウェアの価値を上手に説明できる能力を身につける」という苦労のほうが、低いハードルとなります。
こうして、無駄な苦労を避けて自分なりの苦労を経験することで、人生が徒労に終わることなく、戦略的にキャリを築けるのです。