IT業界には、客先常駐SEという働き方があります。客先常駐SEを一言で説明すると、ある企業に所属している人間が別会社のプロジェクトに参画する働き方です。
インターネットでSE向けの情報を発信しているサイトを閲覧すると、「客先常駐SEは避けろ」というメッセージを発信していることもあります。
しかし、業界全体の傾向として、客先常駐SEを使わないとプロジェクトが成り立たない現状があります。これからも一定数のITエンジニアは、客先常駐SEとして働くことになります。
そこで大事なのは、客先常駐SEのメリット・デメリットを正確に把握したうえで、その立場を上手に利用することです。一見不利に見える環境からでも、戦略的にキャリアを築いて自分を成長させることはできます。
そこでこのページでは、「客先常駐SEとは何か?」と「客先常駐SEとして働くメリット・デメリット」を解説します。
Contents
客先常駐SEとは何か?
客先常駐SEとは、ある会社から別の会社に派遣されて、業務を行うSEのことです。客先が自社だけでエンジニアを確保できないとき、他社のエンジニアを呼ぶことで、プロジェクトを回します。
客先常駐SEは基本的に、「企業に雇用されている正社員」という立場です。
しかし、雇用先で働くのではなく、別会社のプロジェクトに参画して働くことになります。
また、プロジェクトが終了した場合や、自社の戦略の都合で別プロジェクトへの参画が決定した場合は、さまざまな会社を渡り歩くことになります。
客先常駐SEのメリット
客先常駐SEには、普通の会社員にはないメリットがあります。具体的には、以下の2点は客先常駐SEのメリットです。
- 有名企業で働ける
- 複数のプロジェクトを渡り歩いて、転職せずにスキルを磨ける
それぞれ、どういうことか具体的に解説させて頂きます。
1.有名企業で働ける
客先常駐の働き方を選択することで、有名企業で働くチャンスが生まれます。大企業になればなるほど、自社だけではSEを確保できないため、他社に外注する傾向があるからです。
例えば、僕が以前フリーランスエンジニアとして入場した一部上場企業でも、その企業自体に雇われているSEは3~4割程度でした。残りのSEは、協力会社からの客先常駐SE、フリーランス、派遣会社からの派遣社員で構成されていたのです。
僕の実体験として、有名企業で働くことで大企業の仕事の進め方が理解できるようになったのは、とても良い経験になりました。
僕が最初に就職した企業はベンチャー企業だったため、何かあれば社長にすぐに連絡するような風通しの良さがありました。
反対に、大企業では自分の直属の上司などを飛ばして、課長や部長に連絡を取るだけで、組織人としての資質を疑われてしまいます。(実は、僕は一度会社に対しての改善案を直属の上司を飛ばして提案してしまい、ヒヤリとした経験があります。)
良くも悪くも、大企業の動きの遅さを経験することができました。
もちろん、有名大企業で働くことは、悪いことばかりではありません。
- 仕事の割り振りや責任範囲などが明確になるため、作業時間などが推測しやすい
- 一人ひとりに卓越したITスキルは求められない(少数精鋭ではなく、誰かが抜けてもいつでも代わりの人員を補充できるように、業務が標準化されているため)
- 労働条件が整っており、プライベートを充実させやすい
- 面接の段階で人材を丁寧に選別しており、あまり変な人はいない
- 小規模企業のように、人間関係が濃密になりすぎない
上記のほかにも、メリットを上げ始めたらキリがないぐらいです。
本来であれば大企業で仕事をしようと思ったら、有名大学を卒業して新卒で入社しないと、その企業での仕事はできません。
しかし、客先常駐SEであれば、能力次第で大企業内で働き、素晴らしい同僚と切磋琢磨することができるのです。
2.複数のプロジェクトを渡り歩いて、転職せずにスキルを磨ける
客先常駐SEは、あくまで別の会社で雇われて、お客様の現場で働いているという立場です。そのため、プロジェクトが終了した後やプロジェクトの途中でも、別プロジェクトに移動することがあります。
この、「複数のプロジェクトを渡り歩く」という性質を生かして、転職せずにスキルを磨くことができるのはメリットです。
例えば、以下のような経歴を積むことができます。
- 最初の3年はJava+Oracleを使用する環境で開発者として従事
- 1年限定で、顧客先サーバの入れ替えプロジェクトで運用SEとして従事
- C#のエンジニアとして、Windows環境に特化した開発者として従事
どのようなプロジェクトに参画できるかは、自社の思惑も絡んでくるため、自分に都合の良いキャリアの積み方ができるかどうかはわかりません。
しかし、「幅広い仕事を経験したい」と考えているなら、客先常駐SEとして働くことで、転職せずに実現できます。
本体の社員よりスキルが卓越している人も多いのが客先常駐SE!
客先常駐SEの中には、客先企業のSEよりも技術力が高い人が大勢います。これは、客先企業のSEが、「多くのエンジニアをまとめるマネジメント職」にステップアップしていくからこそ起こる現象です。
現状のIT業界では、マネジメントができる人間のほうが技術者として高く評価される現状があり、技術的な深い部分は協力会社に依頼して対応することも多々あります。
そのため、客先常駐SEとして働いても、同僚や先輩から技術を盗むことで、技術的に卓越したエンジニアになれるチャンスは溢れています。
近年では、フリーランスエンジニアという働き方が流行していることもあり、技術力を身につけることで、多くのプロジェクトから引っ張りだこになれるエンジニアを目指せます。
*IT業界の働き方に関しては、以下の記事を参考にしてください。
ITエンジニアの「正社員・派遣社員・フリーランス」働き方比較
さらに、開発力を身につけることで、サービスを提供する起業にもつながるのです。
インターネットでSE向けのサイトを見ていると、「客先常駐 = 悪」という構図で説明されているサイトも多いです。これは、IT業界の特殊なピラミッド構造をどうにかしたいという正義感によるものだと思われます。
しかし、客先常駐を行っている企業を上手く利用することで、あなたの将来につなげることができることを忘れないでください。
客先常駐SEのデメリット
客先常駐SEには、デメリットも存在します。人間を右から左に流すだけでお金が入る業界のため、質の低い社長が経営する企業も多々あるのです。
具体的には、以下の3点は、客先常駐SEであれば少なからず経験することになるデメリットです。
- 給与が安い
- 重要なポストに就きづらい
- プロジェクトが終了したとき、失職する可能性がある
自分が勤めている会社が、これから解説するデメリットに当てはまっているなら、少しでも条件の良い会社に転職することをおすすめします。
あなたが客先常駐SEで、すでに条件が悪いから転職する予定であれば、以下の記事を参考にして、ブラック企業にあなたの力を貸さない転職を実現してください。
1.給与が安い
客先常駐SEは、客先や元請けの社員よりも給与が安い傾向にあります。これは、客先SEが支払うお金が、全額あなたの手元に届かないからです。
例えば、客先がエンジニア一人あたり100万円を支払っていたとします。このとき、あなたを雇用している企業は、福利厚生のための費用や会社の利益のためのお金を引いて、あなたに給与を支払います。
さらに、IT業界では、客先とあなたの間に複数の企業が仲介することがあります。
図にすると、以下の通りです。
上記の図で二次請けの会社に就職してしまうと、あなたと仕事の発注元の間に2社も存在することになります。
これらの企業は、受け取ったお金のうち数%を抜き取るため、あなたに届くお金が減るのです。
これが、IT業界で度々問題になっている、「多重請負構造」です。
客先常駐SEを専門としている会社で働くなら、客先と自社との間に、何社入っているかを見極めることで、優良企業を見極められるといえます。
2.重要なポストに就きづらい
客先常駐SEは、自社以外の会社に協力する形で働きます。
客先常駐SEが働くプロジェクトで、マネジメント職など組織の上のポストに就任するのは、プロジェクトを動かしている企業のSEです。
そのため客先常駐SEは、いつも働いている企業では重要なポストに就きづらいといえます。
もちろん、自社内で出世したり客先で協力会社社員をまとめるリーダー職に就いたりすることもあり得ます。
ただし、プロジェクトの元請け企業の社員として客先に常駐しない限り、プロジェクト全体を引っ張っていくような人材にはなりにくいことは、留意しておいてください。
3.プロジェクトが終了すると、失職する可能性がある
客先常駐SEは、参画しているプロジェクトが終了したとき、失職してしまう可能性があります。あくまで、他社からの要請があって初めて他社のプロジェクトに参画できるため、そこで需要のないエンジニアは解雇される可能性があるのです。
例えば、2008年のリーマンショックから始まった大不況時には、突然多くの会社で業務量が減ってしまうことがありました。
このとき、お客様は自社のエンジニアを解雇することができず、客先常駐SEが優先的にプロジェクトから外される事態があったのです。
そこで、次の参画先プロジェクトが決まらず、結局自社からも解雇されたエンジニアが大勢いました。
つまり客先常駐SEは、雇用の調整弁として使われているといっても間違いではないでしょう。
失職を避けたいなら、プロジェクトから突然抜けることになっても他社から求められるような、技術力が優れたエンジニアになる必要があります。
まとめ
客先常駐SEの世界は、エンジニアの派遣を請け負った企業が、別の企業にエンジニアの派遣を依頼するような構造をとっており、中間搾取の多い世界です。
IT業界の中でも、この構造を良く思っていない人が大勢いるのは事実です。
しかしながら、自分が影響力のある人間にならない限り、IT業界の構造を変えようがありません。そこで、客先常駐SEという立場を利用するのが、エンジニアにとっての現実的な解となります。
例えば、技術的に卓越して独立を考えたり、複数のプロジェクトを渡り歩いて経験を積んだりできるのは、客先常駐SEだからこそできる働き方です。
そこで自分の強みを作り出したら、多くの企業から求められる人材になれます。そして、多くの企業から求められる人材になれば、企業と強気で交渉できるようになり、給与や良い環境を勝ち取ることができるのです。
なお、それでも交渉力に自信がなければ、転職エージェントを活用するのも一つの手段です。履歴書の添削・面接指導から、給与交渉の代行までしてくれる転職エージェントに協力してもらって、理想の職場を見つけ出してください。